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新月の夜 セテマヌ 小説【FE風花雪月】

silhouette of mountain under the moon covered with clouds 二次創作
Photo by Vladyslav Dushenkovsky on Pexels.com

2300字程度、5分程度で読めます。

セテスとマヌエラのお話です。
ネタバレとかは特にないはず。支援BかCあたりではないでしょうか。



◆◆◆


 

 夜の見回りも兼ねて、大修道院からほど近い宿場のあたりを歩く。

 新月が近いが、周辺は賑わいがありとても明るく、皆の潤いになっているのは確かであった。

 灯りと音楽が漏れている酒場を覗くと、見知った女性が、テーブルに上体を投げ出していた。

◆◆◆

「赤き雨を浴びて… 燃える大地越えて… んん〜〜 もう一杯ちょうだい……」

「マヌエラ……!」

 見回りをしていた男は眉間に皺を寄せ、額に手のひらを乗せた。

「店主、すまない、彼女の勘定を。それから、彼女に水を一杯……。ほら、立てるか、マヌエラ」

 半分夢みごこちで歌っている彼女の肩を揺する。マヌエラは薄く目を開けて、ゆっくりを体を起こす。

「……ん、セテスさん…?一緒に飲む……?」

 ふふっと笑うマヌエラに、セテスはあと長いため息をついた。

「あれほど飲みすぎるなと、素行に気をつけろと……。言ったところで、やはり全く響かない、か」

 セテスはマヌエラに水を飲ませると、腕を引いて立たせ、大修道院までの帰路に着く。

◆◆◆

 宿場を離れると、徐々に本来の暗さに包まれる。セテスの腕にしがみつきながら、マヌエラは歩く。

「あっ!……月が綺麗だわ」

 マヌエラは、糸のように細いを見つけ、指差した。もう新月も近くて、ほとんど光っていないような月だ。酔っているのによく見つけられたものだとセテスが少し意外に思っていると、マヌエラは勝手に話し始める。

「月の、本来の姿が見えるようで。新月が近付いた細い月は、嫌いじゃないのよ」

 セテスは意外そうな顔をして、マヌエラを見た。ほんの少し目があって、マヌエラは恥ずかしそうに笑う。

「……ふふ、変な話をしたわね。暗い夜も嫌いじゃないわ」

 そう言って少しだけ、腕を深く絡めて、セテスとの距離を詰める。

「きゃああ!」

 はずだった。

◆◆◆

 石畳の間に、履物が挟まってしまい、セテスが引き上げるのも間に合わず……。転んでしまったようだ。

 マヌエラは座り込み、セテスは彼女の履き物を石畳から引き抜こうと立ち膝をつく。すらりと伸びた彼女の脚は、しなやかな筋肉が美しく見えた。ばつが悪くて八つ当たりのように叱責する。

「……飲み過ぎだ」

 その声色は、少し優しくて。マヌエラは思わず微笑む。

「ふふ、心配してくれるのね」

「違う!断じて違う!」

 履物を直そうとして、セテスの指が足首に軽く触れると、マヌエラが顔を顰めた。

「あっ、痛!」

 足首は熱を持って腫れていた。

「あら…捻っちゃったみたいね……」

「歩けるか?」

「これは、無理だわ。歩けない。医者がいうんだから、間違いないわ」 

◆◆◆

 結局セテスがマヌエラを背負う羽目になった。少しずつ、マヌエラの力が抜けて重たくなるのがわかった。セテスは一旦立ち止まり、ずり落ちそうな彼女を背負い直した。

 この女性は、満月のように美しいが、本当は新月のように繊細なのだろうなと、ほんの少しだけ思った。

 眠りながら昔の夢でも見ているのか。途切れ途切れの小さな声で、歌っている。突然歌が途切れたと思うと、

「最後に… もう一度だけ… 抱いて…」

 短い独白。

「……私はあなたを抱いたことはないぞ」

 酔っ払ったかつての歌姫に、小声で返答した。

◆◆◆

 マヌエラの部屋につき、扉を開ける。いつもよりも幾分片付いている部屋の、寝台に彼女をおろす。

「……ありがとう、セテスさん」

「起きていたのか」

セテスは短いため息をついた。

「ねえ、あの返しは、ないと思うわ」

「返し?」

「私、歌劇の一節、歌って、しゃべってたんだけど、あんな返しされたら夢も冷めちゃうわ」

 そういって少し笑った。セテスは苦虫を噛み潰したような顔をして、今度は長くため息をついた。

「そうだわ。ねえ、もしセテスさんがお話を書くとして、あのセリフの後だとどんな返し、する?」

「私はそういう話は…」

「言ってくれないと、大声出して人呼んじゃうわよ」

 マヌエラは、不敵な笑みで挑発した。セテスは長い長いため息をつきながら少しだけ考える。

「……その話がどういう話かわからないが、多分別れなければならない場面なのだろう」

「……!」

 マヌエラは楽しそうな表情を浮かべ、頷いている。

「しかし、あまり悲しい話は好きではないな。」

「じゃあ、セテスさんなら、どういうお話にする?相手役にどういう風に喋らせる?」

「そうだな……」

 セテスは顎髭に人差し指を這わせ、親指で顎をさすった。思いついたような表情を、マヌエラは見逃さなかった。

 マヌエラはあえて声色を少し変えて、演じた。

「最後に、もう一度だけ、抱いて」

「紡ぐ言葉が多すぎる」

 セテスも心なしか、いつもと違う雰囲気で。

「……。もう一度だけ、抱いて」

「まだだ。まだ、多い」

「……」

 少し考えて。

「………… 抱いて」

 その瞬間、魔法が解けたように。
 そこには我に返った、真っ赤になっているであろうセテスがいて。
 マヌエラも思わず俯いてしまって。

 セテスは振り返り、廊下に出ようとして。

「あ、明日の授業は、遅れないように…」

「…え、ええ、もちろん」

「……よく休んでくれ」

「ええ、今夜は…ありがとう」

 一人残されたマヌエラは、すっかり酔いが覚めていた。

 セテスは部屋に戻って、ほんの少し、酒を呷った。




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