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【2023-2-14公開】The Perfect Shot

二次創作

※アカネイアにないであろうものが登場します。

 現パロだったり、アスク召喚だったりと、

 皆様の趣向で背景をお決めください……。

※目安時間:5分程度

The Perfect Shot

 月明かりも不確かな夜が、密やかに更ける。

 煉瓦の街並みに、静かな灯りがともる。

 こんな夜にはこの店に、ひと際美しいあの客が。

   カラン ……

 扉のベルが、来客を伝えた。

 その客が階段を降りてくる足音は、上質な音楽を聴いている心地がして、私の心は華やいだ。

 私はいらっしゃいませと声をかけて、頭を下げる。客はこちらを見て、手のひらをヒラリとさせた。やはり彼だ。私は上着を預かり、いつもの席に通した。

 彼は伸ばした美しい金髪をいつもと同じように緩く束ね、飾り気の少ない上質なローブを着こなしていた。顔立ちも佇まいも秀麗で、所作からは気品が溢れた。きっと、どこかの貴族に連なる方なのだろう。彼はいつもの席にゆったりと腰を下ろし、グローブを外した。

「いつもの、貰えるかな」

 かしこまりましたと返事をして、私は彼のいつもの一杯目を用意する。

 その間に、

   カラン ……

 新しい来客だ。初めての女性のお客様だった。

 彼女は店内に入ってすぐ、カウンターにいる彼と目が合った様子で、彼の微笑みに少しぎこちなく微笑み返した。彼から三つほど離れた、カウンター真ん中にほど近い席に座った。

「……ブルームーンを」

「かしこまりました」

 彼女は酒を待っている間、手近なところから調度品などを見ていた。カウンターに置いてあるランプ、酒棚、グラス……。そうして少しずつ遠くを見ているうちに、彼と再び目が合ったようだ。彼は穏やかに微笑んだ。まるで優しい月のような微笑み。彼女は少しだけ頬を染めた。気があるとか、好きだとかではなく、ただ美しさに圧倒されているのだろう。

 彼のほうはそれを知ってか知らずか。

「今日は一人ですか?……もしよろしければ、隣に座っても?」

 彼女はできるだけ落ち着いて、ゆっくりと、どうぞ、と返した。

 彼は自分の酒を彼女の隣の席に置くように私に示して、自分はゆっくり席を立った。一歩彼女に近づくたびに、花の香りが立ちこめるようだった。

 私は彼のグラスを置き、続けて彼女のグラスをカウンターに並べる。

「……へぇ、ブルームーンですね。スミレのいい香りがする」

 彼はそう言って、彼女の隣に座った。

「今日は月明かりが頼りないから、ここで見られてラッキーだ」

 彼はそう言って、悪戯っぽく微笑んだ。純真無垢とか甘だるさだけとか、そういうものとは一線を画す、少しほろ苦くてスパイシーで、大人を篭絡する笑顔。二人はブルームーンを媒介に、月や星の話をし始めた。

 来店した彼女からなんとなく感じた、寂しそうな、独りで居たいような雰囲気。そんな靄みたいなものが徐々に取り払われていく。二人の間に優しい会話が続いている。少し悔しいけれど、今日は私よりも、彼のほうがバーテンダーらしい。

「……話していたら、なんだか私も飲みたくなってきたな。……マスター、私にもブルームーンを」

 私は笑顔で返事をして、本日二杯目のブルームーンを作り始める。彼女は月の密やかな優しさに癒されて、表情はふんわりと明るい。少し打ち解けて、心なしか声色も楽しそうに弾んでいる。

「……ん?さっき飲んでいたのは何かって?」

 彼は私にウィンクをする。

「あれには名前がないんです。マスターと相談して、私好みのレシピで作って貰っているんですよ」

 私は、こくりと頷いた。彼女はおずおずと、飲んでみたいと言った。

「おっと……。なんだかまるで、飲んでいたグラスを交換したみたい、ですね」

 わざと思わせぶりに、妖艶に話すものだから、彼女も少し笑っている。

「……少し強いお酒ですよ。大丈夫?……眠くなっちゃうかもしれませんよ?」

 彼は少しだけ大げさなセリフを、わざと挑発しているとわかるように言って、彼女は、構わない、と言った。彼は胸に手を当てて目を閉じ、彼女に軽く頭を下げた。それはまるで王女に忠誠を誓う、騎士のようだった。

「かしこまりました。……マスター、彼女に私のお酒を」

 私も少し仰々しい素振りで、胸に手を当てて承った。

 グラスに注いで、彼女の前に出す。先ほどまで彼が飲んでいたのと同じ酒。

「優しいようにみえるけど、すぐに酔ってしまいますよ。……きっとね」

 彼はそう言って自分のブルームーンを持ち上げた。

「素敵な夜に。乾杯」

 そこから、一口、二口。

 彼が言っていたように、彼女はカウンターに伏して眠ってしまった。

「……ほら、眠ってしまった」

 彼は私に笑いかけた。

「あんな簡単な暗示にかかってしまって……。可愛い人だ」

 彼はブルームーンのグラスを彼女に向けて、乾杯のしぐさをとった。

「あなたの悲しみが、ほんの少しでも消えますように」

 彼女の寝顔にそう語りかけて、ブルームーンを飲み干した。そして独り言つ。

「こんな夜に、独りで、ブルームーンを注文するなんて。訳ありなんだろうね。……ほら、指輪の跡がまだ新しい。……次は狡い男に騙されないように。例えば、俺みたいな、狡い男に……」

 彼が自嘲したようにも見えた。

 彼の指示で、彼女の飲みかけのグラスは片付け、代わりに彼が飲み干したブルームーンのグラスを置いた。花の香りが残っている。

 ブルームーンを飲んだ後、酔ったあなたは眠ってしまった。

 もしかしたら割と気分のいい夢を見たのでは?

 そういうシナリオにしておいてくれ、と。

 チップを上乗せして支払いを済ませた彼は、また来るよ、と月明かりの頼りない夜に消えていく。

 

 しばらくして目覚めた彼女は、少しぼんやりしたあと、

 いい夢を見ました、と照れ笑いした。

 照れ笑いの理由は、初めて訪れたバーで眠ってしまったこと?

 もしくは夢の中に現れたであろう、金髪の騎士?

 夢の中で、なんだか美味しいお酒を飲みました。

 あれは何だったんでしょう、思い出せない……

 私は心の中で呟く。

 そのお酒には、名前がなくて。

 私はこう呼んでいます。

 ザ・パーフェクトショット。

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