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カスヒルの、ある夜の一コマ。
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夕食の時に食堂ですれ違って、
食べ終わったら、自室の片付けを手伝って欲しいとお願いされた。
夜だけど、あの鈍い彼の事だ。
しょうがないなあと返した。
雨音が廊下に響く。
彼の部屋の扉を3回叩く。
扉はすぐに開いた。
彼は私を招き入れ、本棚を指さす。
悪りぃな。
どこに行ったかわからねぇ本があってよ。
整った顔が、にっと笑う。
私は跳ねる心臓に、小さくため息をついて。
どういう本?と訊きながら、
本棚の前に立つ。
背表紙を順番に指でなぞりながら、
言葉を待つ。
あー、そうだな……
そうだちょうど、こんな色の。
彼の手のひらが、
背表紙をなぞっている私の指を、
本の背表紙ごと覆った。
反射的にびくりと体が動く。
背中が熱くなってきて、
何も触れていないけど、
触れるほど近くにいることがわかる。
大きくて熱い手が、
私の手を優しく握ってくる。
雨が窓を叩く音が、無言の部屋に響く。
雷光が2人を照らす。
指先まで震えるほど、心臓が高鳴る。
私は耐えきれなくて
少し振り返って、声を絞り出す。
そういえば
嫌いだったよね、かみな……
もう一度、雷光。
刹那、視線が絡まって。
好きだぜ。お前が。
言葉と共に降ってきたのは、
甘い口付け。
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